さすらい人幻想曲

旅と写真 X100T X-T1 X-T3 RICOH GR

6月・京都洛北(3)曼殊院門跡

正伝寺、圓通寺の後は、曼殊院に向かう。同じ京都の北部、洛北とは言っても、それぞれのお寺の距離は結構あって、正伝寺であれば、鷹峯の光悦寺や常照寺、源光庵と組み合わせる方が近いし、圓通寺なら岩倉まで行って実相院と組み合わせた方が便利だったはずだ。しかし私はその日、行きたいところが正伝寺、圓通寺、曼殊院という3つのお寺だった。また曼殊院であれば赤山禅院詩仙堂と組み合わせた方が便利なはずだが、車で来たので距離的な自由がきく。曼殊院は紅葉の時期が最も良いが、紅葉の時期が良いということはこの時期も良いということ。6月は新緑の季節。青もみじが見頃のはずだ。


圓通寺からは宝ヶ池通まで出て東に向かってしばらく走ると、南北の通り、白川通りに入る。白川通り南下していき、ファミリーマート手前の道を左折する。曼殊院道というそのままの古い街道があり、その道を行くほかないのだが、途中からは道幅がとても狭く、車だと大変気を遣う。途中離合不可能な幅の道が割と長く続き、対向車が来たら、少しはましなところまで戻るなど、譲り合いをするしかない。そのうえ、曼殊院は観光地でもあるので、タクシーや自家用車が結構走る。紅葉の時期は車だと大変ストレスだろう。


しかし、6月の平日はそれほど混まないので、行き帰りとも私は対向車に遭遇しなかった。電車であれば、同じように細い道を歩いていくことになるのだが、叡山電車の駅、一乗寺や修学院からは結構遠い。行くまで道がとても狭いが、着いてしまえば、駐車場も無料でスペースも十分なので、車が便利だった。



曼殊院は皇族や公家が門主を務める天台宗五門跡の一つである。



格式の高い門跡寺院。車で来ると、まずはこの門が迎える。門の手前を左に曲がり進んでいくと、広い駐車場がある。



書院南の庭園は小堀遠州作庭といわれ、国の名勝に指定されている。



スケールの大きな庭園で、見る場所、見る角度によって、まるで違った表情を見せる。



私が京都のお寺巡りの時に参考にしている『京都の古寺II洛西・洛北・洛南・宇治』では以下のように解説されている。


「東南奥に枯滝組みを作り、白砂で池と河川を象徴、石橋や鶴亀二島を配し、建物を船に見立てる。鶴島には樹齢400年といわれる五葉の松がある。」『京都の古寺II洛西・洛北・洛南・宇治』より引用

京都の古寺 2 (楽学ブックス―古寺巡礼)

京都の古寺 2 (楽学ブックス―古寺巡礼)



いろいろな角度から、曼殊院の庭園の良さを堪能する。



今回訪れた三つのお寺はいずれも良かった。三つしか訪れることができなかったが、今回のテーマに掲げた洛北の名刹はかなり良かった。もちろん、嵐山に行けば嵐山の趣もあるし、洛西に行けばまた別の趣があるし、大原に行けばまた大原の趣がある。それぞれ良さが違っているが、その中で、洛北のお寺の良さというのは確かにある。


そろそろ大阪へ帰る時間となる。限られた時間での京都日帰りだったが、三者三様、いずれもキャラクターが異なり、独特の趣があった。価値のある時間を過ごした。


◆今回の撮影に使用したカメラとレンズ

FUJIFILM 単焦点超広角レンズ XF14mmF2.8 R

FUJIFILM 単焦点超広角レンズ XF14mmF2.8 R

6月・京都洛北(2)圓通寺の借景庭園

正伝寺を後にして、圓通寺に向かう。正伝寺は初めてだったが圓通寺は2回目。はっきり覚えている。北山通りを曲がり深泥池沿いに鞍馬街道を北上。「圓通寺左」の案内板がある。かなり広い駐車場もあるので、車でも訪れやすい。市街地では駐車料金のかかるお寺も多いが、洛北、この辺りまで来ると無料である。



門。2回目なので見覚えがある。



圓通寺の庭園は、刈り込みの垣根越しに比叡山を借景とする庭園だ。正伝寺と同じように、観光客も非常に少なく、静寂に包まれている。



木立の間から霊峰・比叡山が見える。



庭園は客殿東に位置し、拝観客向けに案内の音声が流れる仕組みとなっている。「この借景(風景?)はただ与えられたものではなく、現在は、条例があって守られているが、危うい時期があり、当時は、この借景を守るための戦いがあってようやく勝ち取った」と説明されている。風景と言う代わりに「借景が」、「借景を」と言い換えられており、いかに比叡山を借景とするこの眺め大事にされているのかがよくわかった。




もともとは四十余りの石を配した白砂の枯山水庭園だったが、現在は杉苔が一面を覆い、比叡山を借景とする、ここでしかありえない眺めを見せている。いまとなっては白砂の枯山水の姿がイメージできない。




圓通寺の借景庭園。借景というものの良さを認識した庭園だった。


◆今回の撮影に使用したカメラとレンズ

FUJIFILM 単焦点超広角レンズ XF14mmF2.8 R

FUJIFILM 単焦点超広角レンズ XF14mmF2.8 R

6月・京都洛北(1)正伝寺の庭園

車で京都洛北のお寺に行ってきた。京都市内の道路は基本的にいつも混んでいるが、6月の平日は空いている。私が出かけた日は平日で、特に大きな行事もない日だったので、大きな渋滞にも巻き込まれず、スムーズに京都市内を縦断することができた。


6月は、お寺と新緑という組み合わせが楽しめるので、可能な限り、お寺や庭園を見るために出かけていく。桜や紅葉の時期以外でも、観光的に、近年、青もみじが盛んに宣伝されているが、大きな休日もないシーズンなので、現状、それほど混雑しない。観光的には不便な場所を選べば、団体客や外国人観光客もまだまだ少なくて、古き良き京都の情緒を一人で堪能することもできる。


カメラは『X-T3』に14mmレンズを付ける。サブとして、『X100T』をカメラバッグに入れる。フィルムカメラの感覚でいうと、今日は21mmと35mmの画角の写真が撮れることになる。ズームの方が便利だし、21mmは超広角なので難しい。また『X100T』に付いているレンズはF値によって描写が変わる。意外に癖玉だ。しかし、せっかくの休み、癖のある画角の単焦点、不便を楽しみたい。



家のドアを閉めてからそれほど時間が経っていないのに、私は正伝寺の山門の前にいた。道が空いていたので、京都市内を車で行くことはそれほどストレスを感じなかった。ここに立ったとき、私は確信した。ほとんどのお寺を巡ったはずで、正伝寺にもきっと行ったことがあったはずだと考えていたが、この風景は全く記憶になかった。正伝寺を訪れるのは初めてだった。京都には過去に住んでいたこともあり、離れてからも数えきれないくらい通ったが、初めてだった。どうして今まで行く機会がなかったのだろう。近くまで行ったことはあったのに。



参道の坂はそれほど急ではない。ちょっとしたハイキングの気分で、なだらかな参道を上り、境内に近づいていく。



この風景に見覚えがあるのは、CMや写真でもとても有名な風景だからだ。正伝寺の方丈庭園は、岩の代わりに、白砂とサツキの刈込みで構成されており、遠くには比叡山を望む借景庭園となっている。別名「獅子の児渡しの庭」とも呼ばれている。石でなく刈り込みで表現する斬新なアイディア。京都広しとはいえ、こんな庭園はほかにない。また、実際にここに立ってみると、実物はイメージよりも横にも広く、奥行きもあって、さらにスケールが大きいことを知る。




「正伝寺」で検索すると、意外にも「デビッド・ボウイ」の名が一緒に出てくる。京都の古いお寺である正伝寺と世界的ロックの歌手デビッド・ボウイの縁と聞くと奇遇だが、その話は最近になって特によく知られるところとなった。宝酒造のCM撮影で日本を訪れたデビッド・ボウイがこの庭で何かを感じ、涙を流したエピソードが日経新聞に載った。正伝寺は観光客も少なく、周辺の音も、鳥のさえずりくらいしか聞こえない。静寂の中、リラックスした気持ちで縁側に腰かけ、彼が何を感じたのか、思いを馳せる


www.nikkei.com




デビッド・ボウイを聴きたくなってきた。


◆今回の撮影に使用したカメラとレンズ

FUJIFILM 単焦点超広角レンズ XF14mmF2.8 R

FUJIFILM 単焦点超広角レンズ XF14mmF2.8 R

4月・奈良公園・鹿・桜

4月の始め、奈良公園に行ってきた。カメラは『X-T3』で、新しいレンズ『XF14mm F2.8 R』と『XF23mm F2 R』を持って出かけた。

今年の桜は、自分が忙しくて花見の時間が取れず、そんな中、寒い日が続いたり、急に暑くなったりして、良いタイミングで綺麗な桜を見ることができなかった、と思いつつ、いまは満開だろうかと期待していた。奈良公園には数えきれないくらい行ったが、桜の季節は初めてだ。終着駅の近鉄奈良駅で降りて少し歩くとすぐに奈良公園が見えてくる。満開の桜がある一方で、すでに散り始めている桜もあった。また、同じ桜の木でもつぼみの状態と散り始めが共存しており、パーッと咲いた、満開の美しい桜がなかなかない。

鹿が放し飼いにされている(というか鹿は春日大社の神様の扱いだ)のが他の都市ではありえない光景。外国人にも大人気だ。

興福寺に行くことも今回の目的の一つだった。平成30年に再建された中金堂を拝観する。ずっと建設途中だったので、こうやって完成したところを見るのが感慨深い。富士フイルムの超広角レンズ『XF14mm F2.8 R』は、超絶的な性能を持つ。解像度はシャープで、色の抜けもよく、歪曲も全くない。フルサイズ換算で21ミリというのが何とも泣かせるポイントだ。私は21ミリの単焦点レンズというのが昔から好きで、28ミリや50ミリよりも圧倒的に使いやすく、自分に合うと思っている。時々訪れる、お寺の伽藍やお堂を記録するのに最適なレンズではないだろうか。

この辺りも奈良公園の敷地で、人と鹿が共存している。奥に見える奈良国立博物館の『なら仏像館』に行ってきた。こちらは常設展なのに国宝の薬師如来をはじめとする「有名仏」や、重要文化財の宝庫で、暇なときはよく通ったが、最近は行ってなかった。少し前まで見ることができた「降三世明王坐像」は、天野山金剛寺に還ってしまったが、圧倒的な展示で、久しぶりに心が癒された。

奈良公園の北側はまだ桜がかなり残っていて、満開の桜もあった。奈良公園は広いので、あっちの桜がだめでもこっちの桜がある、という風に長期間、桜の季節を楽しむことができるのか。

◆今回の撮影に使用したカメラとレンズ

FUJIFILM 単焦点超広角レンズ XF14mmF2.8 R

FUJIFILM 単焦点超広角レンズ XF14mmF2.8 R

2018信州の旅②安曇野・穂高・池田町

いつも長野に行くと、一日は遠くまで出掛けて行くが、基本的には安曇野穂高、池田町のあたりを行ったり来たりしている。

安曇野ジャンセン美術館』。

安曇野でのアートの旅としては、魅力的な美術館が幾つかある安曇野の中でも、『安曇野ちひろ美術館』か『安曇野ジャンセン美術館』が私の中では双璧で、今年はジャンセンにした。子供のことを考えると、いわさきちひろなのかもしれないが、私のところは親が主導である。どっちにしたところで、下の2歳の子は機嫌が悪いと泣くのだ。敷地内が森になっていて、その小さな森を抜けると美術館にたどり着く。フランスの画家、ジャン・ジャンセンの展示だけを行う美術館。ジャンセンの作品を観るのは何年振りにもなる。他ではお目にかかれない巨大な作品の展示も多く、レイアウトから照明の仕方まで、ジャンセンに最適化された展示となっている。この美術館で観る絵の良さ。言葉にならない。本当は半日くらい過ごしてみたい。

初めて『安曇野ワイナリー』に行ってきた。平日で空いており、係の方にはじゅうぶんな時間をとって対応していただいた。試飲は、運転しない人のみ。車なので私は試飲ができないが、家族は試飲というレベルを超えて、何杯もいただいている。これから家で飲む分を3本購入して帰る。季節は7月の後半。収穫はまだ先のため、まだブドウは小さい。

北アルプス展望美術館』。北アルプスを望む丘の上にある。美術館の看板を目印に県道から脇道に入る。安曇野のイメージを決定付ける景色が待っている。美術館を中心とするこの一帯は公園のように整備されている。乗鞍岳常念岳穂高岳槍ヶ岳などの北アルプスのパノラマと、安曇野平野を一望できる。

信州は本当に何を食べても美味しい。あまり言われないのか、よく言われることなのかわからないが、うなぎが美味しい。水が良いからだろうか。すごい有名店でなくても、美味しいうなぎをいただくことができる(しかしうなぎなので高い)。それにキッシュみたいにお洒落な食べ物も。そして蕎麦のおいしさ。

◆今回の撮影に使用したカメラ

2018信州の旅①小布施

夏休みに長野に旅行に行ってきた。子供が生まれたばかりの年は別にして、ほぼ毎年のように長野県に行っているが、まだまだ行っていない場所は多く、「行っていないが行ってみたい場所」リストの中から、今年は小布施を選んだ。信州の小京都と呼ばれる小布施。私は小京都とか古都とか言われるところが好きで(みんなそうかもしれないが)、できれば行って自分の目で見て歩いてみて、どんな場所なのか確認したかった。

意外に車の時間がかかって、着いたのは昼だった。

カジュアルなイタリアンを楽しめる『小布施堂傘風楼』という店に入る。私たちが座ったボックス席は窓際で水路に面しており、何とも風情がある。そして一面に広がる窓から小布施の美しい街並みを望むことになる。

小布施を訪れる人の99%が訪れるであろう『北斎館』を訪れ、その後、栗の小道を歩く。それと知らなければ、栗の木が地面に埋め込まれているとは意識しない小路は休日となると人でごった返すのかもしれないが、夏休みとはいえ全くの平日ということで、とても空いていた。古都の路地の落ち着きがある。

『高井鴻山記念館』。商人でありながら一級の芸術家であったという、多彩な顔を持つ高井鴻山という人物について私は今まで何も知らなかった。一言で言うと、鬼才。小布施に行かなければ、一生縁がなかったかもしれない。

『小布施堂』のかき氷。小布施らしい、栗のかき氷もあったが、私は栗がそれほど好みでないため、普通にイチゴのかき氷を選んだ。かき氷はある意味とても難しい食べ物で、店で食べるかき氷には「当たり」と「はずれ」があると思っている。「はずれ」は、シロップが市販のもの、氷も雑。そういう店に出会ってしまったら、ガリガリ君を食べている方が幸せだと思えてくる。「当たり」は、氷もきめが細かくて、柔らかい。『小布施堂』のかき氷は「当たり」だった。氷は天然氷。ふわふわである。イチゴがゴロゴロ入っていて上等なジャムのようなシロップ。

食べ物が「当たり」だと旅全体も「当たり」のように思えてくるから幸せだ。そんな気持ちで小布施を後にした。

◆今回の撮影に使用したカメラ

2018京都・新緑~詩仙堂・狸谷山不動院・野仏庵・圓光寺

今年の春は京都の桜を見逃した。いろいろ忙しく、京都に行く暇がなくて、我に返った時には(気が付いたときには)今年の桜の季節が終わっていた。

今は新緑の季節。日差しが強まり、気温がぐんぐん上昇し、これから夏に向かっていくこの季節が私はとても好きで、よく出掛けていく。春に行きそびれた京都にも行ってきた。

何度も訪れている京都で、私は狸谷山不動院に行ったことがなかった。いつも詩仙堂まで行っても、その少し先の宮本武蔵で有名な八大神社まで行って疲れてしまい(叡山電鉄一乗寺駅から向かうと緩やかな上り坂となっている)、狸谷山不動院まで行く気力がなかった。そこで今回は、狸谷山不動院を中心にコースを組んだ。途中に立ち寄りできるところは、詩仙堂と野仏庵。そして圓光寺

詩仙堂

名庭が視界に。日差しは随分強いが、室内はひんやりとしている。鹿威しの音が聞こえてくる。日常の時間とは違う、穏やかな時間が流れている。こういう静かな時間を過ごすためにわざわざ京都までやってきたのだった。


狸谷山不動院

いままで行く機会のなかった狸谷山不動尊。歩いてみると案外、簡単に行けるものだった。一乗寺駅からだと、「詩仙堂まで行って半分」というイメージだった。しかし入山してから石段が200段以上ある。200段というと大したことがないかもしれないが、日頃運動していないので、すぐに汗が噴き出してくる。

ようやく石段を登り切ると、まるで清水の舞台のような狸谷山不動院の舞台を目にする。

狸谷山不動院は、厄除け、ガン封じ、交通安全のお寺として有名なので、京都の人にとっては観光で訪れるお寺ではなく、日常的にお参りするお寺なのかもしれない。山の中なのに広い駐車場があり、家族での参拝客がたくさん訪れている。

■野仏庵

詩仙堂の正面に位置するが訪れる人もそれほど多くない、落ち着いた雰囲気の庵がある。それが野仏庵で、門をくぐれば、何体もの石仏が迎えてくれる。5つもの風情のある茶室を備えている。この季節、藤の庭を見ながら、お抹茶と茶菓子を戴ける。熱いお茶なのに、不思議と喉の渇きが癒され、爽やかだ。

圓光寺

圓光寺正門。

入山して、少し歩いたところに『奔龍庭』という新しい庭園がある。この庭園は、ずいぶん昔に訪れた時にはなかったと思うが、いまは抜群の存在感で迎えてくれる。前衛的なのにとても日本的で、得体のしれない迫力を持った庭園だ。

本堂より『十牛之庭』を望む。圓光寺は紅葉の美しさで有名だが、新緑の季節もそれと並ぶくらい美しい季節かもしれない。

青もみじ。

境内の奥は高台となっている。徳川家康を祀った東照宮があり、そこから洛北の風景を一望できる。

境内の南部は竹林となっている。

『十牛之庭』を歩く。

日頃あまり歩かないのに急に歩いてフラフラ。脱水ぎみ。

その後、曼殊院まで行こうと思えば行くことができたのだが、結局、行かなかった。欲張ると一つ一つの印象が薄れてしまう。久しぶりの京都で、瑞々しい新緑の風景に満足しきってしまったので、曼殊院はまた次回にとっておくことにした。


◆今回の撮影に使用したカメラとレンズ