さすらい人幻想曲

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サントリー山崎蒸溜所の工場見学

サントリーシングルモルトウイスキー『山崎』。その中心的な商品である『山崎12年』は、私が初めてウイスキーを飲み始めた頃は定価で買えていたのだが、『マッサン』以来の国内のウイスキーブームと、ジャパニーズウイスキーの世界的な評価の高まりによって、今ではその定価も8,000円を超え、その高価な定価で買える機会も少なくなった。よほど良心的な酒屋に出会わない限りなかなかない。金を出せば買えないことはないが、そういうものを買うのは罪悪感が残るものだ。私の家には一本あるが、もう少し安い時期に、近所の酒屋で定価で購入したものだ。開ける機会がないまま今に至っている。特別に良いことがあった日に開けようと思っている。

ジャパニーズウイスキー (とんぼの本)

ジャパニーズウイスキー (とんぼの本)

そんな『山崎』を作っている、サントリー山崎蒸溜所の工場見学に行ってきた。山崎蒸留所の工場見学には、いつか行きたいと思っていたが、ホームページを見ても2カ月先まで予約が埋まっていることが多く、私はなかなか先の予定が立たないので、これまで行く機会に恵まれなかった。

なのに急に機会に恵まれることがあって、翌々日に休みを控えたある晩、たまたまサントリーの工場見学のサイトを見ていたら、その日に1名空きがあるという。すぐに申し込むと、自動返信の確認メールが届いた。そして当日を迎えた。そうしたわけで、山崎蒸留所を訪れるチャンスに恵まれた。とはいえ、それは既に去年の話で、半年以上も前のことだ。写真を見ると紫陽花が写っている。去年の紫陽花よりも、今年の紫陽花の方が季節的に近いものになってしまった。

JRの山崎駅を出たところに一軒、『B&B』みたいな宿泊施設の1階が喫茶店になっており、そこでモーニングをやっていたので、トーストと玉子とサラダを食べて、山崎蒸留所に向かう。ゆっくり歩いて徒歩15分ぐらいで、工場の敷地に入り、この看板が目に入る。

こちらが受付付近。入り口から奥を撮影すると、こんな感じになっていて、工場の敷地というよりは、緑に囲まれた別荘地みたいなところだ。信州の避暑地みたいな雰囲気で、空気も美味しい。緑はとてもしっとりとしていて、ここが大阪から1時間以内で来られるロケーションであることが信じられない。

私は受付で名前を申し出て、『山崎蒸留所ツアー』の見学料の1,000円を支払い、構内に立ち入るための許可証をもらい、首からぶら下げる。見学コースの中には『山崎ウイスキー館見学』という無料のコースも設定されているが、その場合は工場内の見学ができず、有料の試飲コーナーとショップの見学が中心となる。

やっぱり紫陽花が咲いている。この建物は山崎ウイスキー館と名付けられている。こちらの2階が見学ツアーの集合場所となっている。時間になると、係員が来て、まずは模型を使って、ウイスキー作りの工程を説明してくれる。その後、敷地内の工場の見学となる。

敷地内を係員の先導のもと、歩いて行く。そして一つ目の建物に入り、エレベーターで2階に上がる。

まずは仕込み・発酵の見学だ。こちらはステンレスの発酵槽だが、背中側の発酵室には木製の発酵槽がある。構内はビールの匂いがする。ビールでも大手会社の洗練されたビールではなく、癖のある地ビールの甘い香りが立ち込めている。

続く工程は蒸留だ。また係員に連れられて、別の建物に移る。こちらの構内はとても暑くて、40度以上の温度に設定されている。先程の工程で出来た醸造酒を加熱・気化したものを再び冷やして液体にしていく。初溜6基、再瑠6基のポットスチルが左右に並んでいる。

できたばかりの原酒。アルコール度数はなんと70度。

そろそろ暑さでやられそうになっている頃に、この建物を出る。続いて、貯蔵庫に向かっていく。

貯蔵庫。出来た原酒をシェリー、ミズナラ、ワイン樽など様々な樽の中で熟成させる工程だ。それぞれの樽の中ではきっとそれぞれのペースで熟成が進んでいることだろう。構内は薄暗く、人間がいることが場違いのような、別の時間軸で時が流れている。

熟成期間も様々な原酒樽が整然と積まれている。こうやって熟成させた原酒がもとになって、一本の『山崎』のボトルができる。

中庭には初代のポットスチルが展示されている。

工場見学はいったんこれで終了し、試飲タイムとなる。係員の案内のもと、屋外に再び出て、最初の建物に戻る。そして、用意された『山崎』の説明、飲み方、テイスティングのやり方のレクチャーを受けて、個別に試飲タイムとなる。その日用意されたのは、ホワイトオーク樽、ワイン樽という二つの原酒樽に加え、発売されている『山崎』(これはノンエイジか)が二杯。樽原酒というのが凄くて、普通だったらまず手に入らないものだ。最終的には一本の『山崎』となる元々の味がこんなに違うのかととても驚いた。

本日おすすめのやり方でハイボールを作る。必要な氷の量、炭酸水の注ぎ方、マドラ―の使い方など、いままで自分が自己流でやっていたことがわかる。レクチャーされたとおりに作ると、いままで味わったことのないような香り、いままで飲んだことのないような味だった。

試飲は、試飲というレベルではない。これで四杯分なので、弱い人ならこれだけで酩酊してしまうだろう。ちなみにおかきなどのおつまみも用意されている。

試飲タイムは30分ほど確保されているが、終了した人から順次、流れ解散となる。もうすこしやりたい人は、有料の試飲コーナーに移動して、銘柄あたり、一杯あたりいくらという料金を支払って、続けても良い。また、ショップでお土産を選んでもいい。

建物内にある原酒ライブラリー。様々な年月を経た原酒が一本ずつ瓶詰されている。様々な色合いの原酒のボトルは、香水瓶を並べたみたいな美しさだ。

折角なので、有料の試飲コーナーで、注文してみる。ここではおつまみは出ないし、全てストレートでの提供となる。氷すら頼めない。それは、ここが飲むための場所ではなく、学習のための場所だからだろうか。今日はアカデミックな工場見学なのだ。さすがに、水はいただけるので、ストレートは強すぎるので、私は水をチェイサーにする。またこの水がすごい。『山崎』を仕込んでいる名水だ。

◇  ◇  ◇

今回、初めて、山崎蒸溜所の工場見学に行ってみて、その人気の訳が分かった。それは重厚な雰囲気を持った貯蔵庫や、充実した試飲ばかりでなく、この山崎という場所がとても素晴らしいのだ。美しい自然と美味しい水、そして素晴らしいウイスキーを創り出すこの土地が一度に好きになってしまった。

◆今回の撮影に使用したカメラ